でも一体どうして奥八幡で?と頭にハテナマークを浮かべる私に笑顔を向けてくれたのは、店主の寺坂寛志さんだ。
「このゆったりとした雰囲気、今にもトトロが出てきそうな袋小路に魅せられてしまって」 。そう話す寺坂さんは、福井県出身。実家が農業と糀屋を営んでいたから、糀は身近な存在だったそう。
「自分の家で収穫した米を糀にして、味噌を手作りしたり、お菓子に使ったりすることを友人に話したら、『そんなことができるの⁉︎』って驚かれたことがあって。糀屋として生まれた僕としては当たり前のことだったんですけど、だったらもっと糀の魅力を知ってほしい、伝えたいと思ったんです」
糀の販売をはじめ、カフェやアパレルを展開する【sawvi】では、実家の兄弟が作る無農薬米や米糀を使い、甘酒のもととなる甘糀や味噌作りなど糀の魅力を発信するワークショップも開催する。
「自分で仕込む味噌は、力の入れ具合もこね方も違うから、絶対にほかの人と同じ味にはならない。自分だけの味噌だから、世界でいちばんおいしくなるんです」と寺坂さんから聞いて、参加せずにはいられなくなった。
味噌作りのワークショップでは、発酵や糀の知識までレクチャー。ただ作るだけでないから楽しみも倍増
「実は味噌って、冬だけじゃなくて1年を通して仕込むことができるんですよ。糀は夏の暑い時期に発酵が進むから、今から仕込めば秋にはおいしい味噌になります」
そんな寺坂さんの話から始まった味噌作りのワークショップ。今回は、大豆ペースト、糀、塩、水を使って2㎏の味噌作りに挑戦することに。まずは容器やボウルを米焼酎でキレイに拭きあげることから。「消毒という意味もそうですけど、おいしくなるおまじないみたいなものですね」 と聞いて胸がときめく。
そしてボウルに糀、 塩、 大豆ペースト、 水を入れてこねていく。ただ混ぜるだけでもみずから手を動かすと、無我夢中になって楽しい。材料から味噌らしき風貌に変わっていくごとに、その完成がすでに待ち遠しくてまだ見ぬ味噌が愛おしくなってしまった。そして材料が合わさったら、お団子状にして容器に詰めて完成。手間はかかるけど、発酵についての知識を寺坂さんから教わり、実際に手を動かすとなんだか心が落ち着いていく。
そして40分ほどで味噌作りのフィナーレ。春先に仕込んで秋を楽しみに待つ。少し先の季節を思えることは、なんて豊かで幸せなことなのだろう。
日本で古くから伝わる糀を使った味噌作り。店主の寺坂寛志さんが糀の歴史から効果まで教えてくれる
寺坂さんの実家で作る糀。味見もOKとのことで一粒パクリ。ほんのり甘くこの時点でなかなかのおいしさ
大豆、糀、塩、水さえあれば自宅でも簡単に作れるのだそう。自分の手を動かして作るから愛着もひとしお
めざすはハンバーグより少し硬めの感触。実は、ただひたすらこねるだけ。半年寝かせれば完成!
保存容器に丸めた味噌種を入れ、空気を抜くためグーパンチ! ちょっとしたストレス解消にもなりそう
直射日光を避けた常温の場所で保管。表面にカビが生えることもあるけれど、スプーンで取り除けば問題なし
日本の伝統と文化に触れた後は、米と糀を発酵させて作る甘糀を使った季節の甘糀ジェラートでひと休み。
甘味や旨味たっぷりの味に感動していると、「糀ってなんにでも合うんです。味噌や醤油にするのはもちろん、甘糀ならそのまま食べてもおいしいし、ヨーグルトやミルク、コーヒーなんかに入れても最高です」と寺坂さん。これまで日常的に使うこともなく、縁遠く感じていた糀。だけど、思いのほか使い方が簡単で、使い道もたくさん。さらに体も整えてくれる嬉しい作用も。
糀のある暮らしを始めたら、前より毎日をていねいに思える気がした。
季節の甘糀ジェラート。甘糀を使った【sawvi】のスイーツやドリンクは、自然な甘みを感じられる