「古都グラファー」として京都、奈良、鎌倉などの古都に特化した撮影を40年以上にわたって続けている写真家の原田寛さん。お住まいの鎌倉から少し足をのばした北鎌倉エリアは、お気に入りのさんぽコースのひとつ。
北鎌倉の魅力といえば、緑深く、禅寺が集まる凛とした雰囲気です。思わずシャッターを切りたくなる、和の情緒あふれる景色をナビゲートしてもらいました。鎌倉観光文化検定の受験対策講座講師でもある原田さんの、トリビア解説もお楽しみください!
「古都グラファー」として京都、奈良、鎌倉などの古都に特化した撮影を40年以上にわたって続けている写真家の原田寛さん。お住まいの鎌倉から少し足をのばした北鎌倉エリアは、お気に入りのさんぽコースのひとつ。
北鎌倉の魅力といえば、緑深く、禅寺が集まる凛とした雰囲気です。思わずシャッターを切りたくなる、和の情緒あふれる景色をナビゲートしてもらいました。鎌倉観光文化検定の受験対策講座講師でもある原田さんの、トリビア解説もお楽しみください!
1948年生まれ、鎌倉市在住。鎌倉の歴史と文化、自然の撮影をライフワークとし、‟古都グラファー“の異名を持つ。写真集『鎌倉』、『鎌倉Ⅱ』、『鎌倉長谷寺』、『古都櫻』、写文集に『古都の写し方入門』、『鎌倉の古道と仏像』、『鎌倉の古寺』、『鎌倉花手帳』、『鎌倉のまつり・行事小事典』、『鎌倉謎解き街歩き』など多数。日本写真家協会会員、鎌倉ペンクラブ会員。湘南エリアを撮影してまわる大好評の風景写真教室は体験参加も可能。
さぁ、北鎌倉から鎌倉まで、古都を味わうおさんぽのスタートです!
北鎌倉駅西口を出発するとすぐに、骨董店だった場所に新しくオープンしたカヌレの専門店を発見。早速立ち寄ってみます。
【マヤノカヌレ】と書かれた暖簾をくぐると、アンティークなガラスケースに、花びらを纏った美しいフランスの伝統的な洋菓子・カヌレが並んでいます。平飼いの卵と国産米粉を使用し、それぞれの味に合わせてエディブルフラワーを飾っているところがこだわりです。
エディブルフラワーのトッピングは、店主の高橋摩耶さんが花に関わる仕事や、花のアクセサリーを作っていたことから生まれたアイデアなのだそう。おうち時間の中でも、華やかな気分を味わってもらいたいという思いも込められています。
お店でイートインもできますが、ギフト用の曲げわっぱに詰めたテイクアウトがおすすめ! 北鎌倉観光のお土産にぴったりです。
カヌレの他、七里ガ浜でアーユルヴェーダのサロンを営む女性にブレンドしてもらっているハーブティー、クラフトコーラや自家製ジンジャーエールなどのドリンクも充実しています。三軒茶屋のOBSCURA COFFEE ROASTERS(オブスキュラ コーヒー ロースターズ)によるコーヒーも販売。カヌレに合うしっかりした味わいの定番と、季節に合わせて2、3種ほど仕入れています。
面白いことに、カヌレは週末だけの販売で、火・水・金・土の夜は、夫の浩介さんによるお酒とおつまみの店【PARLOR ROOM(パーラールーム)】として営業。クラフトビールやワインに合うおつまみを提供する、ふらっと立ち寄れるバーに変身します。ふたつの顔を持つユニークなお店に後ろ髪を引かれつつも、コーヒーとカヌレをテイクアウトして、いざおさんぽへ!
温かいコーヒーと共に、禅寺のまち北鎌倉の中でも鎌倉五山第一位の格を持つ、【建長寺】へと向かって行きます。北鎌倉駅の西口から東口へと渡る第一円覚寺踏切では、「ここは円覚寺の境内だったんですよ」と教えてもらい、びっくり! 明治時代、富国強兵のため軍港への輸送手段である横須賀線の開通を優先した結果、円覚寺の境内内に駅と線路が建設されたのだとか。円覚寺を建設する謂れである白鷺池(びゃくろち)すら、半分に減らしてしまったそうです。
第一円覚寺踏切を過ぎ、北鎌倉から鎌倉方面へ、神奈川県道21号をのんびり歩いて行きます。鎌倉江の島七福神のひとつである布袋尊がまつられている浄智寺や、安倍晴明の石碑、鎌倉古道・切り通しの亀ケ谷坂、建長寺の鎮守の第六天社など、道中でも様々な史跡を見ることができます。
原田さんのガイドを聞きながらの街道を歩いていくと【建長寺】まであっという間の道のりでした。
北鎌倉駅から徒歩15分、到着した【建長寺(けんちょうじ)】は、1253年(建長5年)に当時の執権北条時頼によって建立された、日本初の禅宗専門の道場です。臨済宗の名刹で、国宝の梵鐘をはじめ、多数の重要文化財や仏殿前の樹齢700年を越すビャクシンなど、見どころ満載のお寺。
【建長寺】でぜひ訪れたいのは、絶景が楽しめる最奥の鎮守・半僧坊。総門からは30分ほどのプチハイキングです。長い石段を登って行くと、突如現れる12体の天狗の石像。ふもとの景色とは違う神秘的な雰囲気を醸し出しています
大権現のお使者の天狗が見守る中、さらに山に分入るように無心で進み、吹き渡る風に耳を澄ませていると、心が洗われていくようです。そして、なんという絶景でしょう! まさに旅のハイライトと言っても過言ではありません。
建長寺の境内巡りはちょっとした運動にもなり、気分も晴々、リフレッシュできます。北鎌倉通の原田さんがおすすめする天空の絶景スポットも、ぜひ歩きやすい靴で訪れてみてください。
プチハイキングですっかりお腹が空いてしまった一行を温かく迎えてくれたのは、建長寺のふもとにある【点心庵】。
看板メニューは、伝承建長汁(けんちんじる)。【点心庵】の建長汁は、発祥と言われる建長寺から直接指南されており、ここでしか味わえない貴重な一杯です。おすすめの、湘南野菜の鎌倉はちみつカレーもぜひ。カレーには湘南野菜を惜しみなく使い、料理長の髙橋博文さん自ら建長寺の裏山で養蜂しているはちみつが隠し味に使われています。
「鎌倉に住んでいる、あるいは鎌倉に遊びに来ていただいたお客様に、この土地らしい和の心に触れていただきたくて、禅茶寮と謳っています。店内では鎌倉彫作家の三橋鎌幽や、北大路魯山人の釜を継ぐ河村喜史の作品を飾ったり、実際に食器としてお使いいただいています」とのこと。鎌倉づくしの空間と料理を堪能することができました。
お腹も満たされ、鎌倉方面へと再び歩き出します。鶴岡八幡宮西口の手前で、旧巨福呂坂の切り通しに立ち寄りました。
「ちょっとマニアックですが、この坂の先あるのが【青梅聖天社(おうめせいてんしゃ)】。源頼朝が歯痛で寝込んでいる時に梅が食べたいと所望し、鎌倉中探してやっと梅を見つけた場所なのだとか。梅や水仙が咲く時期は本当にきれいなんですよ」と原田さん。
すると、観光客が通らないような行き止まりの路地ですが、イタリアの国旗がはためく雰囲気のあるカフェレストランがあるではないですか! 花の写真を撮影しにこの辺りを訪れていた原田さんも、ずっと気になっていたお店だったそう。たくさん歩いたので、甘いものでも食べたいところ、ひと休みしていくことにします。
「最初はイタリアンレストランらしい、白い洋風の建物をイメージしていたけれど、この物件にすっかり一目惚れしてしまって」と、山田さん。築100年の古民家をコツコツとリノベーションした店内にはゆったりとジャズが流れています。初めて訪れたとは思えない、居心地の良さ。
早速メニューを見せてもらうと、ケーキだけでも7種類も! 迷いに迷って、アップルシナモンタルトとコーヒーに決定。りんごの自然な甘みが爽やかで、クランブルの食感もよく、あっという間に平らげてしまいました。
フードメニューも、本格的なパスタ、ピザ、肉料理、魚料理と豊富です。「食の好みも人それぞれ、気分に合わせて食べたいものがお出しできるよう、バラエティを持たせたメニューを考えています」と、細やかな気遣いが嬉しいですね。そして、鎌倉にしてはとてもリーズナブル。盛りだくさんのさんぽの最後には、ランチやディナーにも訪れたい穴場カフェを発見することができました。
四季折々に変わる美しい情景と、長い時の流れの中に刻まれた数々の物語が魅力の北鎌倉さんぽ、ぜひ皆さんも楽しんでみてください。
取材・文 二木薫
写真 原田寛