【2026夏】おさんぽコース【藤沢〜江の島〜長谷】

江ノ電で行く、夏の海街アップデート。キラキラ輝く水平線を目指して、藤沢から長谷に揺られる夏のお散歩旅

予定より寄り道、海風にほどける夏

夏の江ノ電は、“予定”よりも“寄り道”がよく似合う。キラキラした水平線を目指して藤沢を出発したら、江ノ電を前に蒸したてを頬張り、香りのいいコーヒーを片手に、長谷までゆっくり揺られていく――今回のテーマは、江ノ電で行く「夏の海街アップデート」です。

このコースで出会うのは、派手な観光スポットというより、作り手の工夫や美意識が積み重なって“更新され続けていく日常”。先代の時間を受け継いで続く店がある一方で、新しい一軒がすっと馴染む余白もある。古さと新しさが、同じ風の中に並んでいる。

布の色に一期一会で出会ったり、路地の奥で“星月夜”の昔話に立ち止まったり――何百年も人が暮らし歩いてきた道だからこそ、心地よい。潮風が涼しい時間、まずは朝の一杯から旅を始めましょう。

10:00【MATTARI】コーヒー一杯からディナーまで、思い思いに過ごせるオールデイカフェ

創業者である祖父の代より現在3代目として屋号を受け継ぐ渡辺さん。1972年から父が営んでいた喫茶店「マタリ珈琲店」が創業50年を迎えた2022年、アメリカ西海岸テイストを取り入れたスタイルに一新。お客さまが思い思いの好きな時間をゆったりと過ごしてほしいという思いを込め、朝9時のオープンからグランドメニューすべてオーダー可能なオールデイカフェとして生まれ変わりました。

▲バゲットにスモークサーモンとアボカド、半熟卵をトッピングした「サーモンベネディクト」は、濃厚なバターのコクと卵黄のまろやかさにレモンの味が爽やかなオランディーズソースがベストマッチ。9時〜14時半はプラスでブレンド、フルーツジュース、アールグレイ他、ソフトドリンクをセットにできます

▲使用しているコーヒー豆は、世界各地から選び抜かれた最高品質の生豆を、独自の焙煎技術によって風味豊かに仕上げているそうです。「カフェラテ」は、深みのある味わいと満足感の高い飲み応えで店主イチオシ。暑い日は、「アフォガード」など夏にぴったりな冷たいメニューも

▲地元のフラワーアーティストによる季節の生花やドライフラワーで彩られ、明るく開放的な店内。ソファ席やワンちゃんと一緒に寛げるテラス席もあり、ひとり時間にもグループ利用でもゆったり過ごせるよう工夫されています

11:00【KOINOBORI】どんな気持ちも包んでおいしく!江ノ電眺めながらほっとひと息

江の島へ向かうお散歩がてら、ふらっと立ち寄れる小さな中華まん専門店【KOINOBORI(コイノボリ)】。“どんな気持ちも、包んでおいしく。”をコンセプトに、2025年12月に江ノ電「江ノ島駅」から徒歩3分程の龍口寺前交差点近くにオープンしました。

肉まん、餃子は皮から手作りして手ごね手包み。厳選した具材選びは勿論のこと、塩麹で本来の美味しさを引き出し、素材そのものの味を楽しめるよう白砂糖、ラードや増粘剤は不使用。余計なものは足さず、素朴でほっとするやさしい味わいと噛むほどに広がる旨味に、心もお腹も満たされる、そんなひと時です。

▲看板商品「肉まん」。国産豚肉、玉ねぎ、筍に加え、自家製ウイスキー漬けのソーセージが隠し味!

▲国産豚肉、キャベツ、ニラをギュッと包み込んだ皮から手作りの大判「こいのぼり特製餃子」。一口頬張るとジュワッと肉汁が溢れるジューシーな味わいです

▲大事な家族の一員であるワンちゃんにも安心して食べてもらえるよう誕生した「わんこまん」。スタッフの葵さんの愛犬がしっかり味見!をして完成した具材は、たっぷりのささみ、しいたけ、たけのこ。タンパク質たっぷりでもちろん無添加。お散歩のあとのご褒美に

12:30【なみのりコーヒーロースタリー 江ノ島店】行き交う江ノ電を眺めながら、香り高いクリアな味わいの自家焙煎コーヒーを

湘南モノレール「目白山下駅」徒歩1分の住宅街に海の見える一軒家ロースタリーとして、コーヒー好きに定評のある【なみのりコーヒーロースタリー】が、2025年7月、江ノ電が通る龍口寺前の交差点に小さなテイクアウト店をオープン。

江ノ電が急カーブを走る龍口寺前交差点は、古き良き商店街の趣を残すエリア。香り高いコーヒーを片手に江の島までの散策を楽しんでみては。

▲店内には、ソウルバーの経営も手掛ける敏浩さんこだわりのタンノイのスピーカーが設置され、音楽喫茶のごとく終日アナログミュージックが流れています

▲店内奥に置かれた小さなソファ席が空いていたらラッキー! クラシカルな趣のある木枠の窓いっぱいに行き交う江ノ電をのんびり眺めながら、店内でコーヒーを味わうこともできます

▲毎日飲むコーヒーだからこそ焙煎前に欠点豆をしっかり取り除き、中深から深煎りに焙煎。まずは「自分たちが飲みたい!」にこだわっているそうです

14:30【tamaki niime okurimon】世界に一つしかない、自分への、大切な人への“オクリモン”に出会いに

鎌倉・長谷の「tamaki niime okurimon」は、播州織のブランド tamaki niime の関東唯一の直営店。ここでできるのは、なにより“布を選ぶ”こと。定番の一点ものショール「roots shawl(ルーツショール)」を中心に、トップスやボトムスなどのウェア、小物まで、色・織り・手触りがそれぞれ違うアイテムを実際に手に取って選べます。贈りものにも、自分の相棒にもなる“オクリモン”が見つかるです。

tamaki niimeの原点ともいわれるショールは、織機を低速で回し、時間をかけて織り上げることで生まれる独特のやわらかさが魅力。肌にのせると重さはなく、空気をふわりとまとっているような軽さがあります。日差しよけや冷房対策にさっと羽織れて、風が通る感覚も心地いい。夏でも“巻く”というより、薄い影をつくるように使えるのがうれしいところです。色の重なりやグラデーションも一点ごとに表情が違い、選ぶ時間そのものが楽しい。

お店は江ノ電の気配をすぐ近くに感じられる坂ノ下の路地に。自然光がたっぷりと入る2階のフロアでは、織りや染めのニュアンスがいちばんきれいに見えます。空間づくりも特徴で、素材からこだわった内装に、作家の作品や手づくりの什器が点在。ショールを巻いた羊と山羊のモチーフ(まきちゃん、あら&まあちゃん)も入口で迎えてくれて、肩の力も抜ける。観光の途中に立ち寄っても、“買い物”というより、布と向き合う短い旅をしているような気分になります。

▲織機のスピードをぎりぎりまで低速にし、手織りのような手間と時間をかけることで独自の作品を織り上げているというタマキニイメの原点作品「ショール」。太陽の光と風を浴び、自然の恵みを受けて乾かされた彩りの美しさにも、心ときめく一点モノ。空気を纏うようにふわりと心地よく柔らかな温もりに包まれます

▲ショールを巻いて外から店内を覗き込むのは、西脇市でタマキさんと一緒に暮らす羊のまきちゃん、山羊のあら&まあちゃんをそっくり模した3匹。右手が一階のエントランス、左手が2階へと続く階段の扉 

▲行き交う江ノ電を見下ろすことができる、自然光が心地よい2階の店内。内装はブランド同様に、素材から追求し建築を手掛ける外部のチームや作家さんの作品で創作。その空間に合うようタマキさん自身が手づくりしたハンガーやラグなどが至るところに配されています。たくさんのつくり手たちのワクワクが詰まった空間

15:30【星の井通り / 星ノ井】井戸をのぞくと星が見えた──鎌倉の“名水と伝承”に会いに

江ノ電「長谷駅」から海へ向かい、一つ目の交差点を右へ。国道134号線の喧騒を背に、極楽寺方面へ抜けていく旧街道が「星の井通り」です。道幅は細く、店先の気配や家々が近い。それだけで、鎌倉が“観光地”だけではなく、いまも人が暮らす町だと実感できます。

この通りの象徴が、【星ノ井(星月の井/星月夜の井)】。鎌倉の名井として知られる「鎌倉十井」のひとつに数えられ、江戸時代には良質な水が湧く井戸や伝説の残る井戸が“名所”として語られてきました。星ノ井の面白さは、まず名前の由来から。伝承では、井戸をのぞくと昼間でも星影が見えたといわれ、さらに誤って包丁を落としてから星が見えなくなったという話も残ります。ふだんの生活道の途中に、こうした物語が今もその場所に残っていることのが、鎌倉らしいところです。

現在は井戸に蓋がされていて、その水面を見ることはできません。それでも立ち止まる価値があるのは、ここが“かつての名水”として旅人に役立ってきた場所だから。水質が良かったとされ、昭和初期まで名水として売られていたという伝えもあり、井戸が単なる伝説ではなく、生活や旅の実用に結びついていたことがわかります。井戸の前に立つと、星の話と同時に、“水を求めた鎌倉”の姿が重なります。

さらにこの一帯は、極楽寺坂切通しの入口にも近く、古くから人の往来があったルート。石段の上に隣接する成就院の境外仏【虚空蔵堂】には、奈良時代の僧・行基がこの井戸で光る石を見つけ、虚空蔵菩薩の化身として祀った──という縁起も伝わります。坂と井戸と寺の気配が近いからこそ、短い散歩でも“時間の層”が濃いのが、この道の魅力。創業100年を超える老舗【三留商店】や【力餅家】なども並び、買い物やおやつの気配に混じって、地元の生活が淡く続く。派手な名所ではないのに、なぜか印象に残る。星が映ったという井戸は、いまは蓋の下。それでも星月夜の伝説は、通りの静けさの中でちゃんと光っているのかもしれません。

▲江戸時代には、良質な水が湧く井戸や伝説の残る井戸が名所とされ、鎌倉の観光名所として定められた井戸「鎌倉十井」の一つともされています。また、石段の上に隣接した成就院の境外仏「虚空蔵堂」には、奈良時代の僧・行基がこの井戸から光る石を見つけ、虚空蔵菩薩の化身として祀ったと伝わる古刹があります

▲「星の井通」は海岸線の国道134号線から一本入った裏道。観光客が往来する大通りから一歩外れるだけで空気が静かになり、創業100年を超える老舗店「三留商店」や「力餅家」が並ぶなど、鎌倉で暮らす人々の生活の気配を感じられます

16:00【鎌倉海浜公園 坂ノ下地区】海を眺める「三角地」と、漁師町の気配が残る海辺の休憩所

長谷と稲村ヶ崎のあいだ、国道134号線沿いに広がる【鎌倉海浜公園 坂ノ下地区】。海側の広場は通称“三角地”と呼ばれ、ここからは由比ヶ浜〜材木座〜逗子へと続く、きれいな弧の海岸線が一望できます。歩き疲れたらベンチに腰かけて、冷たいアイスコーヒーを片手に潮の匂いと波のリズムをぼんやり眺めるだけでも、鎌倉らしい余白の時間になります。

この公園の目の前に広がる漁港は、いまは季節ではありませんが、春になるとわかめなどの海藻漁が盛んになります。浜に近い場所で網や道具を扱う気配があったり、海の色が少し深く見えたり。観光地というより、海と仕事が地続きのエリアであることを実感できる——鎌倉の暮らしの呼吸を感じられる場所でもあります。

18:00【BISTRO SANTÉ】食いしん坊少女が気鋭の実力派シェフに。日常もご褒美にも通いたくなるビストロ

フランスや銀座、鎌倉の名店で研鑽を積み、地元のイベント出店などを経て2025年9月に待望の実店舗をオープン。注目の若手実力派シェフの店として注目を集める【BISTRO SANTÉ(ビストロ・サンテ)】。

食いしん坊な家庭で育ち、幼い頃から料理が身近な存在だったというオーナーシェフの楢崎さんがフレンチのシェフを志したのは、小学2年生のとき。幼い頃から思い描いてきた夢を叶えた楢崎シェフ、進化を続ける料理に注目です。

▲ディナーのアラカルトで人気の高い日替わりの「前菜盛り合わせ」(一人前)。内容は、その日メニューにある前菜数種とメニュー外で用意した野菜惣菜等を6種類ほど彩り豊かに盛り合わせた一皿。この日の内容は「みくるべたまごのウフマヨ焼き蜜柑ソース」、「赤キャベツと橙のマリネ」、「自家製ツナのニース風サラダ」、「マッシュルームと自家製リコッタチーズ」、「豚とにんじんのリエット」、「菊芋のポタージュ」。一品ごとにイキイキと水々しい素材それぞれが持つ香りや風味、活力を五感で感じられる、体にも心にも優しい味わいです

▲お酒が苦手な方にも楽しんでほしいと、自家製のノンアルコールドリンクも充実。季節のフルーツを使い、料理に心地よくなじむよう仕立てた「自家製シロップ」。写真は、いちごとミントのソーダ割。好みでソーダ割・水割り・お湯割を選べます

▲専門学校卒業後、フランス、銀座、鎌倉でサービス、料理人、パティシエとして研鑽を積んできた楢崎さん。「日常的なごはんにも、特別な日にも、自分へのご褒美に欲張りたい日にも、1杯だけ喉を潤したい日でも。気分に合わせて使い分けてみてくださいね」

監修 湘南スタイルマガジン
取材・文 橋本幸恵
写真   立原継望