1948年生まれ、鎌倉市在住。鎌倉の歴史と文化、自然の撮影をライフワークとし、‟古都グラファー“の異名を持つ。写真集『鎌倉』、『鎌倉Ⅱ』、『鎌倉長谷寺』、『古都櫻』、写文集に『古都の写し方入門』、『鎌倉の古道と仏像』、『鎌倉の古寺』、『鎌倉花手帳』、『鎌倉のまつり・行事小事典』、『鎌倉謎解き街歩き』など多数。日本写真家協会会員、鎌倉ペンクラブ会員。
鎌倉プリンスホテルにて、鎌倉殿の13人にちなんだ写真展を公開中
1948年生まれ、鎌倉市在住。鎌倉の歴史と文化、自然の撮影をライフワークとし、‟古都グラファー“の異名を持つ。写真集『鎌倉』、『鎌倉Ⅱ』、『鎌倉長谷寺』、『古都櫻』、写文集に『古都の写し方入門』、『鎌倉の古道と仏像』、『鎌倉の古寺』、『鎌倉花手帳』、『鎌倉のまつり・行事小事典』、『鎌倉謎解き街歩き』など多数。日本写真家協会会員、鎌倉ペンクラブ会員。
鎌倉プリンスホテルにて、鎌倉殿の13人にちなんだ写真展を公開中
鎌倉駅付近でも神社仏閣が集まり、情緒あふれる大町エリア。名刹を巡って散策を楽しむ人も多いのではないでしょうか。中でも【安養院(あんよういん)】は、北条政子の法名が付けられた政子ゆかりの寺として知られています。
頼朝の死後、北条執権政治の基盤を支え続け、尼将軍と呼ばれた政子。北条氏を語る上では欠かせない人物です。「テレビなどの映像で見る有名な政子像は、安養院の本堂に安置されていますよ」と、原田さんが案内してくれます。
頼朝が北条氏を筆頭に坂東武者を従え旗上げした経緯を思えば、政子との結婚は、武士の世の到来に欠かせないものだったのかもしれません。政子像を前に、様々な想像が広がります。
さらに原田さんから、「安養院は『つつじ寺』と呼ばれるほど、つつじの名所。寺院の山門前から境内まで鮮やかな色に染まる、鎌倉の初夏の風物詩です」と教えてもらいました。
寺院一帯に燃え上がるように咲く大ぶりの花は、武士の世という新時代の活気や、尼将軍・政子の風格を彷彿とさせるようです。時に厳しい選択を迫られながらも困難に立ち向かった政子の情熱やパワーは、現代の女性にも力を与えてくれるのではないでしょうか。
安養院から小町大路を15分ほど歩くうちに、車通りも少ない静かな住宅街へ辿り着きました。向かうのは、北条一族・郎党が最期を遂げた【東勝寺跡(とうしょうじあと)】です。鎌倉幕府の幕開けとなる『鎌倉殿の13人』の時代から時は過ぎ、1333年にはついに北条氏の時代も終焉を迎えることに。
東勝寺は、北条一族の菩提寺として建立されたお寺でした。しかし、後醍醐天皇の倒幕軍である新田義貞に攻められた際、この寺に立てこもり火を放ったため、当時の建物はもう残っていません。
また、東勝寺跡へ続く【東勝寺橋(とうしょうじばし)】のたもとには、北条氏に仕えた青砥藤綱という武将の旧跡の碑があります。「橋を渡る際、滑川に銭10文を落とし、それを探すのに50文を投じた逸話が有名。これを損と捉えないところが話のツボなんです」と原田さん。「当時のお金は中国から輸入し、流通量が限られた貴重なものだった。だから、川に沈んだままでは永遠の損失になる。夜の川を照らす松明に使った50文で商人も儲かるなら、その方が世の中には利益が大きいと考えたんです。」
なんとも深い洞察力ですね! 全盛期の北条氏の下には多くの優れた人物が集まり、文化も栄えたことでしょう。盛者必衰という歴史の流れを強く感じさせる場所です。
現在の東勝寺橋は1924年に建設されたもので、大正当時の様式を残す希少なアーチ橋として、鎌倉市の景観重要建築物等に指定されています。付近は新緑と紅葉の撮影スポットとしても有名なのだとか。鎌倉幕府終焉の地は、今は緑に包まれ、せせらぎの音がただ静かに響いています。
東勝寺跡から鶴岡八幡宮方面へ小町大路を5分ほど進むと、右手に見えてくるのが宝戒寺。北条氏を滅ぼした後醍醐天皇が、その霊を弔うために建てた天台宗のお寺です。なぜ、敵だった後醍醐天皇が......? 原田さんに聞くと、「当時は滅ぼした後にその相手を恐れ、慰霊する文化がありました」と教えてくれました。こういった思想は明治時代頃まで続いていたようです。
この地は『鎌倉殿の13人』に登場する北条義時以降、歴代の執権屋敷跡であったと言われています。鎌倉幕府、鶴岡八幡宮のすぐ側に屋敷を構えていた北条氏。「今で言うなら、丸の内みたいな場所です」と原田さん。なんと丸の内在住! 執権としての当時の権勢が感じられますね。
そして、宝戒寺と言えば、季節ごとに咲く花が美しく、特に秋の萩が有名。「萩寺」とも呼ばれる古刹です。「溢れるような萩の白さが、慰霊を感じさせます。枝垂れ梅や彼岸花も白が多いですし、花の色も鎮魂を意識しているのかもしれないなど、色々想像してしまいますね」と原田さん。
坂東武者の世を夢見て、鎌倉の地で150年以上熱い思いを貫いた北条氏。美しく咲く白い花々は、北条氏の白いのぼり旗のように今でも誇り高く風に揺れています。
※掲載情報は2022年3月末時点のものであり、変更になる場合がございます。
取材・文 二木薫
写真 原田寛