#鎌倉ノスタルジック紀行①

レトロな情緒を楽しむ!鎌倉の文豪行きつけスポット巡り

明治以降、鎌倉は保養地や別荘地として栄えながら多くの文人を惹きつけ、文壇も形成された「文学のまち」でもあります。文豪ゆかりのスポットで知的な刺激をもらいながら、レトロな散策を楽しんでみませんか。

どこを切り取っても絵になる洋館【鎌倉文学館】

鎌倉エリアで知的な刺激とレトロな気分を味わうのにピッタリな場所といえば、鎌倉ゆかりの文学者の著書や原稿、愛用品などを展示する【鎌倉文学館】は外せません。

江ノ電「由比ヶ浜」駅から徒歩7分ほど、石造りの正門をくぐると街の喧騒が遠のき、時を遡っていくような気持ちに

緑の中を進んで行くと、青い瓦屋根が印象的な洋館が見えてきました。

昭和60年に開館した鎌倉文学館は、もともと昭和初期に建てられた旧前田侯爵の別邸。昭和58年に鎌倉市に寄贈され、平成12年には登録有形文化財に指定された由緒ある建物。和洋折衷のデザインが独特で、昭和の別荘建築の中でも貴重な存在です。三島由紀夫自身が取材に来て、小説『春の雪』の中の別荘のモデルとして使われているそう。建物前には樹齢200年を越える樹木がある西洋風庭園が広がり、約200種250株ものバラが揃ったバラ園も見事です。

庭園から望む鎌倉文学館。結婚式の前撮りでも人気のスポットなのだそう

館内に入ると左手に常設展示の部屋があり、100人の文学者の鎌倉ゆかりの地を紹介した地図が飾られています。実際にゆかりのある文学者は、なんと300人以上もいるそうですよ! この地図をヒントに鎌倉観光してみるのも面白そうですね。

夏目漱石をはじめ、明治から現代まで錚々たる文学者本人の直筆原稿も展示されています。それぞれの文字に個性があり、「あの人はこんな文字を書いていたのか.....」と、人となりや息遣いを身近に感じることができます。「夏目漱石は俳句を作ると友人の正岡子規に添削してもらい、ガッツリ赤を入れられていたようですよ」と、面白いエピソードも教えていただきました。

ふと目をやれば、文学館の正面に広がる湘南の海。天気の良い日には、伊豆大島まで見渡せる

大正の終わりから昭和に活躍した「鎌倉文士」のコーナーのステンドグラスは必見。なんと建築当時の昭和11年のもの

照明や建具、床の寄木細工も味わい深く、文学館そのものが、まるで小説の中に出てくるような世界

別荘地や保養地として栄え、優れた文学が花開いた当時の鎌倉を思いながら、散策してみてはいかがでしょうか。


※鎌倉文学館は、2023年4月1日~2027年3月31日まで、大規模改修のため休館中です。

鎌倉文士の愛した味を堪能【二楽荘】

散策してお腹が空いたら、鎌倉文士が通った【二楽荘(にらくそう)】へ。1934年に鎌倉の小町に創業した、鎌倉で最も古い中華料理店です。今は賑わいの絶えない小町通り周辺も、創業当時はほとんどお店も無かったのだとか。

大佛次郎が日常的に愛用していたお店。川端康成、里見弴、久米正雄など、文化人の集いも盛んだったそう

落ち着いた雰囲気の店内。建物は昭和50年代に建て替えましたが、店内には創業当時のものも飾られています

当時のメニューは「円」ではなく「銭」という単位。電話番号も4桁しかありません。本当に古くからあったお店なのですね

【二楽荘】の名物は、えびの汁そば。川端康成や大佛次郎の会食のしめの定番でした。また、北京シウマイは初代の調理長・陳雲階が、鎌倉文士や著名人のお土産として用意したもので、シウマイの皮の先を長細くひねった形から花シウマイとも呼ばれています。

赤穂の塩と鶏スープが滋味あふれるえびの汁そば。文士に「いつもの土産」と呼ばれていた北京シウマイは、黒豚の旨味がたっぷり凝縮

「大佛次郎さんがインドネシアから海燕の巣を取り寄せて二楽荘で調理した話はよく祖父から聞き、著作『敗戦日記』にも登場しています」と、代々【二楽荘】を営んできた四十八願(よそなら)さん。

「時代によってお店も一様に変化してしまうと、その土地、その町の特色が無くなってしまう気がします。二楽荘は変わったことはしない、むしろ昔ながらの味を、こだわりを持って作り続けることを大切にしています。あの料理が食べたい、と思い出してもらえるのが嬉しいですね。」

4代目の四十八願勉さん。「良いものを覚えるには5歳まで」という教えにより、幼少から二楽荘の味を体で覚え、守り続けています

店内では、さまざまな年代のお客さんが食事を楽しんでいました。親から子へ、さらには孫へと何代にも渡って通う家族も多いのだとか。日常使いから宴会まで、鎌倉で長年愛されてきた味をぜひ堪能してみてはいかがでしょうか。

鎌倉でいちばん古いコーヒーショップへ【イワタコーヒー店】

観光の合間にお茶をするなら、戦後まもない1945年に小町通りに開店した、鎌倉で最も古いコーヒーショップ【イワタコーヒー店】はいかがでしょう。川端康成や大佛次郎など多くの文人が、執筆の合間の休憩や、編集者との打ち合わせに訪れた場所です。目まぐるしく入れ替わる小町通りの情景の中で、イワタコーヒー店の変わらぬ佇まいが「ああ、鎌倉に来たな」と感じさせてくれる、そんな存在でもあります。

小町通りの入り口に位置するコーヒーショップ。昔懐かしいガラスケースには喫茶メニューのサンプルがずらりと並び、思わず足が止まる

改装、増築を繰り返しながら営まれてきた店内。飴色のタイルやソファもいい味わい 

喫茶メニューを見てみると、サンドイッチやトーストなどの軽食、スイーツ、ドリンクが写真付きで紹介されています。どれも美味しそうなので、オススメをお願いしたところ登場したのが、オリジナルブレンドコーヒーと自家製プリン。

ネルドリップでじっくり淹れるコーヒーと、昔ながらの硬めの蒸し焼きプリン

【イワタコーヒー店】のコーヒーは、1928年創業の老舗、キャラバンコーヒー(当時はミカドヤ商店という屋号だったそう)の豆を使用。文豪たちも嗜んだコーヒーは深みのある味わいで、甘いプリンにもよく合います。

「あれ、ふたつ頼んだかしら」とびっくりしますが、イワターコーヒー店ではこれが定番スタイルなのだそう! 嬉しい驚きです。「このプリン懐かしいなあ、すぐに味を思い出せる」と、鎌倉育ちのカメラマン・三浦安間さんがポツリ。ずっと同じ職人さんが作っている、この店の変わらぬ味です。

その他、分厚い2段重ねのホットケーキも大人気。オーダー後に焼き始め20分ほどかかるので、注文はお早めに。

70年以上、観光で訪れる人、鎌倉の町の人の憩いの場。店の奥には小さな庭もあり、ゆったりした時間が流れる

「小さな頃から訪れていたので、ここは私にとって“おばあちゃんの家”なんです」と、3代目店主の生嶋亜里沙さん。なるほど、この店に流れる懐かしくて温かい雰囲気をまさに表したような言葉です。

思い思いに過ごすことのできる、もうひとつの我が家のようなお店。ふらっとひとりで訪れるお客様も見かけます。鎌倉を舞台にした小説でも持って、ゆっくり過ごしてみるのもいいかもしれませんね。

取材・文 二木薫
写真 三浦安間

※掲載情報は2022年1月末時点のものであり、変更になることがあります。
※取材、撮影は新型コロナウイルス感染拡大予防に十分配慮して行っています。