腰越エリアは、江ノ島から江ノ電で一駅、七里ヶ浜や稲村ヶ崎からも徒歩圏内という近さながら、昔ながらの商店が並び、江ノ電が道路をのんびりと走ってゆく姿が望めるノスタルジックな雰囲気の港町です。そんな腰越の学生団体ニューコロンブスの青木彰吾さんは、腰越で生まれ育ち、お休みの日も地元で過ごすのが大好き。腰越は、潮風を感じる解放的な自然や人懐っこい町の人たちが営むお店が多く、のんびり落ち着く場所だと言います。歴史とも関係が深い神社仏閣や地元民が訪れる絶景スポット、代々続く老舗のお店から若い人が営む美食店まで、フォトジェニックな場所が満載の腰越をナビゲートしていただきましょう!
▲「若者の可能性のスタート地点」をコンセプトに活動する学生団体ニューコロンブスの青木さん。団体では、地域清掃や農業体験などさまざまな取り組みをしています。
江ノ電「腰越駅」に着いたら、駅を背にして右方向に通りを歩いてみましょう。電車の警報機の「カンカンカンカン」という音ともに、なにやら車や自転車がスロースピードに。すると江ノ電が姿を見せ、ゆっくりと道路を走っていきます。このエリアは、江ノ電が唯一道路上を走る姿が見られる貴重な場所。目の前をカタコトと走っていく江ノ電の姿に思わず足を止めて見入ってしまいます。通りには、歴史を感じる食堂やお肉屋、レトロな写真館など覗き見したくなるようなお店がたくさん。昔ながらの商店街を散策するのも腰越の楽しみのひとつです。
江ノ電の線路の間近に店を構えるのが、明治5年創業の【鎌倉魚市場】。横須賀から真鶴まで相模湾一帯の朝どれの新鮮な地魚を中心に取り扱う直売所です。早朝は業者さん向けに生魚を、11時頃からは一般のお客さん向けに魚や刺身、加工品を販売する全国的にも珍しい民間の魚市場として、地元民の食卓を支え続けています。買い物をしていると、店の暖簾がたなびくほどの至近距離を江ノ電が走っていくのも店の醍醐味のひとつです。
▲その時々で変わる江ノ電のさまざまなデザインの車両を見るのも楽しい
▲早朝は店先にとれたての魚が入った箱が積み上げられ、プロの人たちで賑わいます。この日は天然わかめ(写真手前)が入荷していました!
▲おっと、なにやら真剣な眼差しで何か良いものを見つけた様子の青木さん。お買い物の後は、同じ中学校出身のオーナーさんと地元ならではの話で盛り上がっていました
店内には、朝どれの鮮魚や刺身、夕飯のおかずにもぴったりなお惣菜など相模湾の海の幸がずらりと並んでいます。平日の一番人気は地魚入りの海鮮丼で、すぐに売り切れてしまう人気商品。日曜限定の家呑みセットはカルパッチョや煮物など、惣菜が3種入って色々な味を楽しめると好評なのだとか。スーパーとは一味違った品揃えの魚を楽しめるのも魚市場ならではの魅力ですね。
▲練り物やイワシバーグ、開き干しなど多彩な品揃え。何をお土産にしようか迷ってしまいますね。春先はオリジナルの腰越産干しわかめがおすすめ!
▲人気の朝獲れ地魚海鮮丼をゲット! 魚の内容はその日の水揚げによって変わるというお楽しみ。このボリュームと活きの良さで650円はお買い得すぎでは!?
街歩きを楽しんだ後は、おいしい食事でお腹を満たしましょう。古き良き腰越の街に合うのはやっぱりお蕎麦でしょ? と、西鎌倉方面へ徒歩10分ほどの【お蕎麦 結】へ。
鎌倉の蕎麦屋で修行を積んだ後、京都など各地の蕎麦屋で勉強を重ねて学びを深めた店主の宮内貫さん。由比ヶ浜出身の宮内さんが、大好きな鎌倉の地にお店を構えたいとオープンしたお店は今年で10周年を迎えました。「お客さまにお蕎麦を一番良い状態で提供したい」とその日の気温や湿度に合わせて、各地のそば粉を使い分けた手打ちの蕎麦を提供しています。サーフィンが趣味という元気な宮内さん同様フレッシュで力強い蕎麦が味わえるお店は、常連客やリピーターで連日賑わっています。
▲腰越駅から歩いて約10分、静かな住宅街にひっそりと佇む隠れ家のようなお店
▲店内の一角にある蕎麦の手打ちスペースも趣がある。北海道産の蕎麦粉をメインに、福井、滋賀、青森など各地の粉を使い分ける蕎麦づくりはまるでアート
お蕎麦の味と香りをストレートに感じられると評判のお蕎麦は、せいろや十割蕎麦から田舎蕎麦、温かいお蕎麦までバラエティ豊富に揃っています。お蕎麦の味を引き立てる出汁への手間も惜しまず、かつお節、昆布、椎茸やいわしなど数種の食材から抽出した出汁が、蕎麦つゆや温かいお蕎麦の汁のベースに。
「関西風のスープのように、最後まで全部飲んでいただけるような出汁を目指しています」と、そば湯を注いで余すことなく頂ける美味しいつゆにも注目してみてください。蕎麦を使った甘味や、季節の天ぷらなどのおつまみ、日本酒の品揃えも豊富なので、多彩な料理をお腹いっぱい楽しめるのも魅力ですね。
▲人気メニューの一つ、天盛りせいろ。お蕎麦の香りがふわりと広がるシンプルかつ贅沢な一皿。季節の野菜やエビがサクッと揚げられた天ぷらをヒマラヤ岩塩でいただく。素材の旨味をダイレクトに感じられて美味!
▲食後の甘味におすすめしてくれたのはそばがき団子。蕎麦粉をお湯で練ってゆでた「そばがき」で自家製のあんこを包み、きな粉をたっぷりかけた一品。ふんわりとした食感と甘さ控えめの味わいで、ついついおかわりしたくなってしまいます
▲木を基調にした温かみのある店内には、テーブル席と座敷席を用意。所々に飾られた海の写真や絵を探してみよう
▲お店の休憩時間には海に出てサーフィンを楽しむアクティブな店主の宮内さん。「春は桜の葉を刻んで生地に練り込んだ桜切り蕎麦、夏はすだちそばなど季節がわりの蕎麦も人気です」
【お蕎麦 結】でお腹が満たされたら、腰越駅方面へ向かいましょう。駅を越えて海の方向へと進むと現れるのが【小動神社(こゆるぎじんじゃ)】です。
源頼朝が伊豆の流人だった頃から使えた武将、佐々木盛綱が創建し、風もないのに揺れる「小動の松」があったと伝わる岬に神社があることが名前の由来だと言われています。ご利益は厄除、除災招福、勝利祈願、商売繁盛、難局打開など多岐にわたり、新田義貞が鎌倉攻めをする際にはこの神社で戦勝祈願をしたという言い伝えもある由緒正しい神社です。
▲海へと続く参道は、6月頃には紫陽花が彩を添える。写真左側の倉庫には、例年7月に開催される天王祭で各地区を巡る山車が収められています
▲厳かな雰囲気漂う本殿。赤いほっかむりをした狛犬が鎮座しています
▲小さな頃から神社の清掃活動に参加していた青木さんにとっても馴染み深い場所。二礼二拍手一礼でお参りしよう
本殿の周りには航海安全や漁業の神様をお祀りしてある末社があり、港町の神社ならではの光景が楽しめます。例年7月に行われる「天王祭」は江ノ島の八坂神社と共同の大規模なお祭りで、腰越の町をお神輿や囃子屋台が練り歩き大いに盛り上がるイベント。「お祭りで懐かしい顔ぶれに会えるのも嬉しいです。地元の人にとって切っても切り離せない大事なお祭りなんです」と、青木さんも毎年参加しているとのこと。
せっかくなので、境内の奥にある展望台にもぜひ足を運んでみましょう。観光客にはあまり知られていませんが、実は江の島や相模湾の水平線まで望める絶景ポイントなのです。
▲自然豊かな境内にはウミガメを模した愛らしい石像も
▲境内奥の展望台からの美しい夕景は散歩の締めくくりにぴったり。季節によって日が沈む位置が変わるのも見どころ
【小動神社】からの眺めも圧巻でしたが、余裕があればぜひ訪れてほしい秘密のスポットが腰越漁港。江の島と富士山が同時に眺めることができ、サンセット時に刻々と変わる景色すべてがシャッターチャンス! 青木さんも休みの日には漁港脇で友達と釣りをしたり、浜辺を歩いたりとリフレッシュに最適な場所だと教えてくれました。静かにたたずむ江の島のシルエットと沈みゆく夕陽を堪能しつつ、今日のお散歩の余韻に浸ってみるのはいかがでしょうか?
▲波音に癒やされながら砂浜でのんびり夕陽を眺められる。海、江の島、富士山を同時に楽しめる贅沢な眺望
取材・文 上崎有紀
写真 市川紀元
※掲載情報は2022年3月末のものであり、変更になることがあります。