もやい工藝の店内

#地元民の鎌倉案内②

手仕事の温もりに触れて心ほっこり。鎌倉駅西口から始まる佐助エリアのお花見さんぽ

鎌倉駅西口、通称 ”裏駅” 側からお散歩スタート

鎌倉・佐助エリアは、緑豊かな源氏山公園、桜の名所である葛原岡神社など古都らしい落ち着いた雰囲気に包まれた自然を身近に感じられるエリアです。それでいて、隠れ家的なカフェや雑貨店も点在しており、ショップ巡りに自然散策、神社仏閣参拝と実はさまざまな楽しみ方ができることをご存知でしょうか?今回は鎌倉駅西口から、春の香り漂う佐助エリアを巡るお散歩コースをご紹介します。自然に囲まれつつ神社やお店をのんびり散策して、古都鎌倉の風情を感じてみましょう!

まず、お散歩のスタートとなる鎌倉駅西口側を目指しましょう。西口は、小町通りなどがある鎌倉駅東口側のエリアに比べて、地元の人が集まるローカル感が漂っています。佐助や御成通り、長谷方面への起点となる場所で、カフェやレストランなど個性豊かなお店も増えています。鎌倉駅西口を背にして真っすぐ進むと見えてくるトンネルをくぐり、さらに直進。「佐助一丁目」の交差点を右に曲がると、今回のお散歩のメインエリアの始まりです。

▲通称”裏駅”とも呼ばれる鎌倉駅西口は、地元の人の生活感を感じる落ち着いた雰囲気。正面の道をまっすぐ行きましょう!

▲西口のロータリーから徒歩数分。「御成隧道」と書かれたトンネル付近からは、緑の量も増えて自然を身近に感じます

▲「佐助一丁目」の交差点が見えたら右へ曲がりましょう

この「佐助」という地名の由来は、佐介流北条氏の祖となった北条時盛が邸を構えたことに由来する説や、伊豆で病に伏した源頼朝=佐殿(すけどの)を、現在の【佐助稲荷神社】の位置に立つ祠から現れた神霊が助けたという伝説から、佐殿を助けたので「佐助」になったともいわれています。

【もやい工藝】日本各地の選りすぐりの手仕事と、クラシカルな建物を堪能

「佐助一丁目」の交差点から路地に入って歩くこと数分、源氏山の深い緑とともに見えてくる趣のある建物が創業50年の【もやい工藝(もやいこうげい)】。吉祥寺で開業し、北鎌倉を経て34年前に佐助にやってきました。

焼き物やかご、ガラス、ざるなど日本各地で育まれてきた手仕事の生活の道具を取り扱い、三鷹で姉妹店「手しごと」も運営。店の創設者は現代の民藝活動の貢献者として知られる故・久野恵一さん。現在は息子さんの民樹さんに受け継がれ、日本各地の素晴らしい伝統と手仕事を提案し続けている、鎌倉の地元民にも愛される老舗の工藝店です。

▲古都・鎌倉の雰囲気に調和するシックな建物。貫禄のある外観に、思わず中へ吸い込まれてしまいます

▲使うほどに味が出る手仕事の椅子や机。一つのものを大切に使っていく良さが実感できる空間

▲長野の本棟造りと出雲の民家建築を合体して設計されたアートのような建物の中には、日本各地の工藝品の数々。北陸地方の「ベンガラ」を用いた塗装など、あちこちに光る“こだわり”を探してみよう!

オーナーとベテランスタッフの眼で選りすぐった日本各地の手仕事は、沖縄のやちむん、小鹿田焼や小石原焼などの焼き物、沖縄のガラス、かご・ざる、木工家具や和紙と多彩な顔ぶれです。お店のモットーは“スタッフ自ら各地に足を運び、作り手と交流しながら実際に作品を見て選ぶ”こと。時代や流行を追わずに基本的な形を踏襲しつつも、各窯元の良さや伝統を生かして作り手と製品をつくるなど、作り手と使い手の架け橋にもなっています。何気ない料理でもさまになる器、美味しくコーヒーが飲めそうな素敵なカップなど、日常使いできる品々が揃うので、自分だけのお気に入りを見つけてみましょう!

▲沖縄の伝統的な唐草模様を施したオリジナルの商品。4、5月には毎年人気のやちむん展を開催。夏にはガラスや麻の製品も増えるので季節ごとに訪れる楽しみもありますね

【もやい工藝】の先代の奥様、久野麗子さん。民藝品や窯元について興味深い話をたくさんしてくださり、この日もあっという間に楽しい時間が過ぎてしまいました。「お店の中にしばらく居てくださると光にも目が慣れて、それぞれの商品がしっかり見えてきます。気になる作品を店内のテーブルに並べてゆっくり選んでみてください」と、古き良き日本の手仕事を見て、触れて、心ゆくまで味わえるお店です。

【GOOD SOUVENIR AND COFFEE】個性的な鎌倉みやげにワクワクする、アートなコーヒーショップ

素敵な作品にたくさん触れた後は、おいしいコーヒーでひと休みしましょう。ウグイスや鳥のさえずりが聞こえる小道をトコトコと、銭洗弁財天方面へ歩くと見えてくるのが【GOOD SOUVENIR AND COFFEE(グッドスーベニアアンドコーヒー)】。 アパレルブランドのデザイナーだった店主の野村武広さんは佐助に住んで12年。会社を独立してフリーのデザイナーとして活動しながら、ハンドドリップコーヒーと自らデザインするスーベニア(=お土産)が楽しめるお店を2020年にオープンしました。海外にあるセンスの良いスーベニアショップをイメージし、ギフトはもちろん誰もが日常使いできるグッズを製作。観光客の方から地元の方まで幅広く親しまれているお店です。

▲温もりを感じる木の建物が佐助の住宅地に馴染んでいます。店主・野村さんと同じ年生まれの黄色い車が目印

▲おしゃれなハンドペイントやアートワークのデザインはすべて野村さんによるもの。写真右側、「FUJI ROYAL」のコーヒーグラインダーはパワーがあって安定して豆を挽けるので、老舗喫茶でも使われているそう。重厚感のある音がシブい!

▲この日はマンデリンの深煎りをドリップしてもらいました。酸味が少なく芳醇なコクとすっきりとした苦味、シナモンやハーブを思わせる香りに癒されます。外のウッドデッキに座って飲むのもオススメ

コーヒー好きが高じて独学でコーヒーを学んだ野村さん。コーヒー豆は鎌倉の老舗カフェ【café vivement dimanche】の堀内マスターにお願いし、ブラジルやエチオピアのシングルオリジンのコーヒー豆を揃えています。それぞれの豆の良さを感じられる焙煎度合いでローストしているので、豆それぞれの味わいの違いをしっかり感じられるのが特徴です。スーベニアグッズは鎌倉の自然やコーヒーをテーマに、洋服、バッグ、コップやキーホルダーと多彩な顔ぶれに目移り必至。日常使いできて素敵なデザインの上に、海外の文化を取り入れたりとストーリー性もあるので、野村さんにお話を聞いてみると面白い話がたくさん聞けますよ。お散歩の邪魔にならないサイズ感ですぐに使えるグッズが多いのも、嬉しいポイントですね。

▲コーヒーを味わいながらのお土産選びが楽しい! 夏になるとTシャツ類も増えます 

▲野村さんイチオシのスーベニアは、鎌倉の「源氏山」がモチーフのステンレスカップ。リュックにぶら下げたときにも可愛らしい小さめサイズで、直接火にかけることもできます。ピクニックやハイキングにぴったり

【銭洗弁財天 宇賀福神社】霊水が湧く、鎌倉随一の金運ご利益スポット!

【GOOD SOUVENIR AND COFFEE】を後にして、源氏山公園方面へ登る坂道の途中にある【銭洗弁財天 宇賀福神社】へ参拝に向かいましょう。源頼朝が夢の中で宇賀福神より受けたお告げ通りに、この地に泉を見つけ宇賀福神を祀って供養を続けると、人々に富と平安が訪れたことがこの神社の起こりと言われています。洞窟から湧き出る霊水「銭洗水」でお金を洗って参拝し、清らかな心身で世のためにお金を使うとご利益を頂けるという言い伝えもある由緒正しい神社です。

▲苔むした岩々や歴史を感じる石柱も絵になる

▲トンネルのような参道を歩けばまるで探検気分

▲洞窟内にある「奥宮」。岩のすき間から覗く緑や差し込む光が神々しい

【銭洗弁財天 宇賀福神社】は市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)を祀る本宮をはじめ、七福神を祀る七福神社や水の神様を祀る上之水神宮や下之水神宮と見所の多い神社です。奥宮から湧き出る「銭洗水」は鎌倉五名水の一つで、江戸時代に水質に恵まれない鎌倉の湧き水の中で質が良く美味しいとされた清水。鎌倉の金運アップのスポットとしても評判で、弁財天の縁日である巳の日は特にご利益があるとされ、周辺道路が車両進入禁止になるほど多くの人で賑わいます。境内までは少々坂道を歩くことになるので、歩きやすい靴を履いて景色を楽しみながら訪れましょう!

▲社務所でかごやお線香を購入し、参拝をしてからお金を洗い清めます。洗ったお金は有意義に使いたいですね

▲水の神様「水波売神(みずはのめのかみ)」を祀る下之水神宮。社殿隣の一条の滝、やぐらなど自然と歴史が織りなす風景が間近に

【cafe gula】秘密にしておきたい古民家喫茶で、自家製スイーツを味わう

【銭洗弁財天 宇賀福神社】で境内の散策を楽しんだ後は、ゆっくりと甘いものをいただきましょう。来た方向と反対側の参道へ進むと、左手に顔を出すのが【cafe gula】。あれ? 観光スポットのすぐ近くなのに、お店の周りにはほとんど建物がなく、木々にあふれています。聞けば、【cafe gula】の店主である吉田さんがこの周りの土地300坪ほどを所有しているので、周りにお店や高い建物がないのだそう。築90年の建物の良さを多くの方々に体感してほしいという思いから古民家を改装し、アンティークの調度品を少しずつ買い揃えながら日本建築の良さを受け継いでいるお店です。

▲緑に包まれた趣のある外観。カフェの前の小径は元々は神社への表参道として使用されていました

▲氷を入れて冷蔵庫として使われていたアンティークの戸棚などレトロな小物が並ぶ。「家具も小物も実際に手に取って五感で味わってください」と店主の吉田さん

ゆったりと配されたアンティークの家具が並ぶ店内では、木の香りに包まれてのんびり過ごすことができます。柱や天井は出来るだけそのままに使ってほしいという以前の持ち主の要望を活かしつつ、畳をフローリングに張り替えるなど店主さんのオリジナリティが光る内装。靴を脱いで店に入るので、知り合いの家に遊びに来たような安心感を感じられるのもいいですね。

▲木枠の窓から光が差し込む店内。神社仏閣でよく見かける花頭窓など、日本建築の美しさを身近に感じられる貴重な場所

▲お菓子はすべて自家製。チーズケーキやローズヒップティーなど、お菓子と飲み物がセットで300円。「美味しかった」と笑顔で帰ってもらえることが一番のご褒美という思いからこの値段設定にしているそう

▲和室の部屋には昔懐かしいサザエさんの漫画や黒電話。まるで昭和の時代にタイムスリップした気分ですっかりくつろいでしまいます

一息ついたら、少し足を伸ばして桜の絶景へ

四季折々の花々に出会えるのも鎌倉の魅力のひとつ。【銭洗弁財天 宇賀福神社】の先にある葛原岡神社や源氏山公園はお花見スポットとしても有名で、特に葛原岡神社の参道に咲き誇る桜の様子は圧巻です。シートを広げられる場所もあるので、ピクニック気分で春爛漫の鎌倉を満喫してみてはいかが?

▲葛原岡神社では、境内を包むように見事な桜が花開く

※価格はすべて税込みです。
※掲載情報は2022年3月末時点のものであり、変更になることがあります。

取材・文 上崎有紀
写真 三浦安間