七福神とは、布袋尊(ほていそん)、弁財天(べんざいてん)、毘沙門天(びしゃもんてん)、寿老人(じゅろうじん)、恵比寿天(えびすてん)、大黒天(だいこくてん)、福禄寿(ふくろくじゅ)、という仏教、ヒンドゥー教、道教、神道に由来する七柱の神様の総称です。
室町時代の末期頃には、仏教の経典の中で「七難即滅、七福即生(しちなんそくめつ、しちふくそくしょう」という、多くの災難がたちまち消滅し、多くの福徳に転ずるという言葉があることから七つの神への巡拝が始まったとされ、江戸時代には民間信仰として定着したと言われています。
現在では、この七福神巡拝が正月の行事として各地で行われていますが、鎌倉・江の島七福神は正月だけではなく、一年中いつでも巡拝できるのが特徴です、
江ノ島電鉄の一日乗車券「のりおりくん」を利用し、正月シーズンで混み合う時期を避けて心願成就・家内安全・疫病退散など、皆さんの願いを胸に巡ってみませんか。
七福神を巡礼した証として御朱印を拝受することができますが、この御朱印は奈良~平安時代ごろに、お経を書き写して奉納する際、その受領書として与えられた書付や、鎌倉〜室町時代ごろに法華経というお経を66部書き写し、全国66か国の霊場を巡って1部ずつ納める「六十六部廻国供養」などがルーツとして挙げられています。
「御朱印」はスタンプラリーのスタンプではなく「参拝の証」として授与されるものであることを理解した上で巡拝しましょう。
今回の七福神巡りでは専用の直書き用色紙を携えて巡拝しましたが、その他にも通常の御朱印帳や屏風形のご朱印帳なども用意されています。
それぞれ授与される寺社が限られているものもありますので事前に「鎌倉・七福神」の公式ホームページを確認されることをおすすめします。
■浄智寺 布袋尊
J R横須賀線北鎌倉駅から今回の巡拝の旅は出発しましょう。
駅から約8分ほど歩くと浄智寺に到着します。
県道を行き交う車の喧騒を逃れ、静寂な空間に包まれる境内を進むと奥の洞窟に千客万来、家運隆盛、家庭円満、商売繁盛の神様である布袋さまが微笑みながら指を差し、お立ちになられています。
布袋さまは、天の月を指す姿で描かれることが多いのですが、こちらの布袋さまは横を指しています。
差す先に何があるのか、何を意味するのかはお参りする人の気持ちによって色々と感じ方が異なってくるのかもしれませんね。
拝観時間 9:00〜16:30
拝観料 大人(高校生以上):300円
小・中学生:100円
多言語音声ガイド 500円
浄智寺前の県道を横断した先にあるバス停「明月院」から江ノ電バス「鎌倉駅東口行き」に乗車し、4つ目のバス停「鎌倉八幡宮前」で下車し(※)前方に進むと左手に鶴岡八幡宮の大きな鳥居「三の鳥居」をくぐり境内に入ります。
正面の太鼓橋を中心として左右に池がありますが、右側が源氏池、左側が平家池と呼ばれており、旗上弁財天はその源氏池の中島に位置しています。
弁天(弁財天)さまは現在では恋愛成就、学徳成就、諸芸上達、福徳施与の神様とされていますが、源頼朝が旗上げ(出陣)する際に弁天さまが出現して頼朝の守護神となったという伝えや、承久の乱の際に頼朝の妻、北条政子が後鳥羽上皇率いる朝廷軍と戦う際にこの場所に御家人を集めた、という言い伝えもあり大願成就のご利益があるとされています。
なお、社殿内に安置されていたとされる鎌倉時代に作られた弁天さまの坐像は鎌倉国宝館で拝観することができます
※江ノ電バスは「のりおりくん」を利用できません。別途バス運賃をお支払いください
拝観時間 6:00〜20:00
拝観料 志納
鶴岡八幡宮から3分ほど歩くと、武道成就、降魔厄除、家内安全、夫婦和合の神様として毘沙門天を祀る宝戒寺に到着します。
宝戒寺は、鎌倉幕府2代執権、北条義時が屋敷を構え、その後代々の執権が住んだ場所に鎌倉幕府滅亡後に創建されました。
毘沙門天さまは軍神として、上杉謙信など多くの武将から信仰を集めたことでも有名ですよね。
(ちなみに上杉謙信が新潟から山を越え、はるばる鎌倉にやって来ていた事はご存知ですか?)
拝観時間(4月~9月) 9:00~16:30
(10月~3月)9:30~16:00
拝観料 大 人:300円
中学生:200円
小学生:100円
宝戒寺前から徒歩で海側へ歩くこと約5分で妙隆寺に到着です。
幸福長寿、家庭円満、延命長寿、福徳智慧の神様である寿老人を祀っています。
妙隆寺のある場所は鎌倉時代、有力御家人千葉氏の別邸があった場所とされています。
先ほど参詣した宝戒寺から、この後に参詣する本覚寺周辺、そして海に至るまでの道は「小町大路」と呼ばれ、有力御家人の邸宅エリアや商業エリアを通る鎌倉でも一番の賑やかなメインストリートでした。
妙隆寺のすぐそばには日蓮が行き交う民衆に説法したとされる辻説法跡が残されています。
拝観時間 境内自由
拝観料 志納
■本覚寺 夷尊神
妙隆寺前の小町大路を更に海側へ歩くこと約5分で商売繁盛、除災招福、五穀豊穣、大魚守護の神様を祀る
本覚寺に到着です。
もともと、この場所には源頼朝が鎌倉に幕府を開く際に頼朝の邸宅があった大倉御所の裏鬼門(「鬼門」の反対側、南西のこと)の鎮守として夷堂を建立した、とされています。
地元の人たちは正月の「初えびす」や「本えびす」には福娘と呼ばれる女性から商売繁盛のための福笹を授けていただき、春には境内に見事な枝垂れ桜が咲く頃にお参りするなど、「えべっさん」として親しまれています。
拝観時間 9:00〜16:00(寺事務受付)
拝観料 志納
七福神巡拝も順調に進み、お腹が空いてきました。
そこで、本覚寺から歩いて10分ほどに位置する「鰻のおかむら」で無事に結願できるようしっかりパワーチャージしましょう。
下馬交差点を長谷方面に進み、江ノ電の踏切を渡って少し進むと、左手奥に暖簾を下げた門があります。
店内に入り、木目が美しい木材をふんだんに使った落ち着いた空間に誰もが癒されルのではないでしょうか。
うな重は定番の「蒲焼き」と、醤油とわさびでいただく「しら焼き」でオーダーしてみました。「蒲焼き」はもちろんですが「しら焼き」はうなぎの素材の良さや旨みがより分かりやすく美味しくいただけるので一押しです。
うな重を「白焼き」(左)・「蒲焼き」(右)で味わう
お腹いっぱいになった後は、どちらも歩いて約8分の鎌倉駅か和田塚駅に向かい、江ノ電に乗車しましょう。
江ノ電を長谷駅で下車してから歩くこと約5分、江ノ電の踏切を渡った先に平安時代の鎌倉周辺の領主で、勇猛な武将として知られた鎌倉権五郎景正公をお祀りする御霊神社が位置しています。
景正公の命日である9月18日、氏子さんたちが十種類の面をつけて周辺を練り歩く「面掛行列」というお祭りが執り行われますが、その面の一つに、財運招福、延命長寿、立身出世、招徳人望の神様とされる福禄寿がいらっしゃいます。
この福禄寿は、いつでも宝蔵庫で他の面と一緒に拝観することができます。
拝観時間 境内自由
宝蔵庫 9:00〜16:30
拝観料 志納
宝蔵庫:100円
御霊神社から歩くこと約5分で長谷寺に到着します。
長谷寺というとやはり十一面観音菩薩さまが有名ですが五穀豊穣、子孫愛育、出世開運、商売繁盛の神様である大黒様もお祀りしています。境内に入り左側に進むと大黒堂があり、堂内には「さわり大黒天」「三面大黒天※」が鎮座しています。
※「大黒天」「弁財天」「毘沙門天」の3つの顔を持ち、あらゆる願いを叶えていただける神様。
拝観時間【7~3月】8:00~16:30(閉山17:00)
【4~6月】8:00~17:00(閉山17:30)
朱印所受付時間 8:00〜16:00
拝観料 大 人(中学生以上):400円
小学生:200円
「さわり大黒天」の小槌に触れると金運がU Pするかも!?
長谷寺から長谷駅に戻ったら、江ノ電に乗り江ノ島駅に移動です。
江ノ島駅までの車窓はトンネルあり、海あり、路面電車のような自動車との併用軌道あり、と江ノ電のハイライトを凝縮した区間なので、席に座ってウトウト....ZZZ、なんてないようにしてくださいね。
江ノ島駅で下車した後は徒歩で江の島を目指しましょう。
スバナ通り商店街を抜け、江の島弁天橋を渡ると江島神社の鳥居をくぐり、参道「江の島弁財天仲見世通り」に歩を進めます。
この道幅の細い参道は県道305号線(江の島線)という歴とした県道なのはご存知でしたか?
その仲見世通りの坂道を登ると、右手に老舗の和菓子店「江の島 元祖 紀の国屋本店」さんが見えてきます。
こちらのお店はテイクアウトだけでなく、座って和菓子をいただくこともできますので、ここで一息つくとしましょう。
今回お薦めしたいのは、これから弁天様にお参りする江島神社の社紋であり、鎌倉時代に執権として活躍した北条家の家紋でもある「三つ鱗(ミツウロコ)」と白波の焼き印が押された「江の島どら焼き」です。
現在、多くの和菓子店では制作工程が機械化されている中で、こちらの餡や皮は厳選された素材を使い、熟練の職人さんの手によって心を込めて一つ一つ作られており、お茶と一緒にいただくと今まで歩いてきた疲れも吹き飛びます。
江島神社の弁天さまは広島の厳島神社、滋賀の琵琶湖に浮かぶ竹生島神社と並び日本三大弁財天の一つに数えられており、恋愛成就、学徳成就、諸芸上達、福徳施与の神様として祀られています。
奉安殿には2体の弁天さまが安置されています。
八つのお手を持つ国指定重要文化財に指定されている八臂弁財は源頼朝が奥州藤原氏の調伏祈願のため造られたものとされ、勝運守護の神様として崇敬を集めました。
もう1体の妙音弁財天坐像は琵琶を抱えたお姿から、歌舞音曲の女神としての信仰を集めました。
江戸時代にはこれらのご利益をいただくために「江の島詣」として多くの人が参拝に訪れ江の島は大いに賑わいました。
境内には当時の歌舞伎役者さんが奉納した石灯籠が安置されており、現在でも芸能関係の方々が多く参拝されています。
拝観時間 境内自由
(奉安殿)8:30〜17:00
拝観料 志納
(奉安殿)
大 人200円
中高生:100円
小学生:50円
(25名~団体割引)
※掲載情報は2025年8月取材日時点のものです。
取材・文・撮影 岡林渉
御朱印と巡礼を終えた証の結願印(けちがんいん)を拝受できました