今もしらすやわかめ漁など漁業の町のおもかげを残す材木座に2016年11月に開店された「燻製食堂 燻太」。鎌倉駅から材木座海岸を目指して徒歩17分(バスを使えば約10分)ほど、お店から材木座海岸までは一直線に歩いて5分の立地。長く映像制作に携わってこられた濱田雅裕さんが、55歳の節目に奥様の美幸さんと始められたお店です。
通りから見えるオレンジ色の「燻太」の旗が目印。靴を脱いで入店すると広がる白い空間。中央のダイニングテーブルとカウンター席。夏はテラス席も気持ちよさそうです。
「二人ともお酒が好きで、晩酌のための料理を凝って作っていたんです。子供たちにはカレーとかテキトーに食べさせておいてね!(笑)」と明るく話す雅裕さん。お店を始める以前から仕事に余裕があるときは自宅の台所で調理をしたり、休日のキャンプでは「焼きそばとかは作らない(笑)」とのことで、キャンプらしくない料理を楽しんでいらっしゃったそう。
「燻製をはじめたのはベーコンづくりがきっかけです。キャンプなんかでもよく作っていました。当時から肉以外に刺身をさっと燻製したりしてましたね。もう、子供たちが競争して食べるんです。子供は正直ですよ、美味しいものにね。」
映像制作の仕事を長く続けてこられ、現場から徐々にマネジメントへと仕事内容も変化。現場から離れるにつれて芽生えた気持ちが少しずつ大きくなり、以前から興味をもっていた「料理」でお店をはじめることを決意。齢55の時、定年を待たずに会社を辞められ始められたのだそう。なかなか勇気ある行動ですよね。
当初は長く住んで馴染みもある横浜での開店を考えていたそうですが、「ずっと横浜に住んできたから、思い切って鎌倉ではじめよう。そのほうが面白そう!」という美幸さんからの提案がきっかけとなり、材木座に住宅兼店舗を構え、2016年11月に開店されたそうです。
「お店で食べた美味しい料理を覚えて帰って、家で再現するように工夫して料理をしていました。開店当初のメニューにはそういう昔から家で作っていたようなおつまみ的な料理が多かった。でもね、だんだんと自分でもちゃんとした本物の食べ物、料理を作りたいって想うようになってきたんです。」
お客さんからの要望を聞きながら、徐々にメニューも増えてきたそうです。合わせて燻製も試行錯誤を繰り返しながら独自の方向性に。
「燻製というとしっかりと香も色も付いた物が一般的だと思うけれど、引き算で考えるようになって。今ではほんのり香りをつけるくらい。色もさほど付かない程度に仕上げます。このやり方だと食材本来の味を活かせて、食材が本来持つ旨味を引き出せるんですよ。」
わっぱ飯にのせられた燻製しらすをひと口いただくと納得の口福感。釜揚げされたばかりの熱々しらすも柔らかく美味いけれど、この燻製されたしらすは、さらに旨味が濃くなり食感も良き。ご飯との相性も抜群です。
燻製の作り方について伺ったところ「だいたい2時間ほど燻製しています。燻製に使う木の種類もいろいろ試して今は桜に落ち着きました。桜のチップが一番香りが付きやすいのですが、食材にはほのかに付くようにチップ量、燻す食材とチップの位置関係、そして燻製時間など細かく調整しています」と楽しそうに語る雅裕さん。
下ごしらえとして普通の料理プラス2時間の燻製時間。きっと燻製の前工程も考えたらもっと時間もかかっているはず。これは大変な仕事です。
「宮崎地頭鶏の炙り焼き」は厚手のスキレットに熱々の地頭鶏がゴロゴロと入って出てきます。宮崎の郷土料理である鶏の直火焼きは見た目の黒さに驚くほど。「薪の直火の火力と一緒に木の香りを鶏肉に移すから、僕の中では一種の燻製という位置づけです。」コリコリと食感も楽しめ、ご飯がすすむ一品です。
牛蒡や大根、人参にぶなしめじと油揚げ、まさに具沢山の味噌汁も満足感がこみ上げる一汁。定食として鶏肉だけでなく野菜もバランスよくいただけて嬉しいです。白飯も炊き立て熱々とくれば、無心になって箸を進めるのみ。
美味しい物好きのご夫婦が形にした定食の一つの理想形。それぞれがじっくりと味わい甲斐がある構成。定食は奥が深いかも、と感じさせる体験でした。
定食メニューは燻製系として他に「燻製チキンときのこのグリル」「ベーコンリゾットと紅茶ゼリーセット」「燻製文化鯖」なども。また「ピリ辛鶏ネギ丼と紅茶ゼリーセット」など台湾屋台飯系も提供されています。
定食以外にも一品料理も魅力的なメニューが多数。燻製された白身魚のお刺身をはじめ厚切りベーコンステーキ、信州鹿もも肉のたたきなどのジビエも。ほんのり香りがついた"燻製された"白身魚のお刺身は、昆布締めのような奥深い味わいに衝撃を受けてしまいました。
渋谷の某老舗台湾料理店で味わった「台湾腸詰」の美味しさにハマり、お店を開く前から手作りして楽しんでいたという「台湾腸詰」は、期間限定メニューとして毎冬人気の一品。具材の豚バラ肉は手切りとひき肉の配合やスパイスの調合も毎年進化を続けているとか。塩味と豚肉の旨味が濃厚で、これはワインやビールにぴったりの一品でした。(台湾腸詰は店内イートイン限定メニュー。お店でお楽しみください。)
お酒好きのお二人が営むお店ですから言わずもがな、地ビールをはじめワインなどお酒のラインナップも充実。ちなみにメニューは昼夜問わずすべて注文できるのも嬉しいですね。
素材と料理。これは映像と料理に共通するポイントなのかも知れません。まずは素材が大切。けれど、それをどう料理(編集)するかはセンスと腕次第。
異業種からの転身ながらお二人の柔軟な考え方と行動力で見事にお店を軌道にのせ、コロナ期間を経て、より深みと幅が増した燻太の料理。何よりも濱田さんご夫婦の気負いのないマイペースなところ、美味しいものが好き、料理って楽しいという在り方もカッコいい、素敵なお店です。
「お客さんに喜んで食べてもらうのは嬉しいけれど、燻製づくりは大変だから材木座のこの場所でお店をやって良かったです。駅近くだったら毎日大変だったかもなぁ・・・」なんて本音もポロリ。
「あっ、去年息子がネット通販のホームページを作ってくれまして、燻製の食品類は遠方からも購入できます。ぜひご覧ください!」とのことです。すぐにお店に行けない方は、燻太の燻製をぜひご自宅でお楽しみください。
取材 ALOHAS
※料理の内容、価格は変更の可能性があります。
※掲載情報は取材日時点(2023年2月)のものです。
※営業時間につきましては公式SNSもしくは店舗にお電話でご確認ください。