腰越駅

野菜フレンチ Suzu
ヤサイフレンチ スズ

蔬菜の彩りと多様な風味が高める肉魚の奥深さ。野菜も主役のフランス料理店

▲オリーブ色のドアに掲げられた銅色の「Suzu」のプレートが、お店の目印です。江ノ電が走る併用軌道区間沿いにお店があります

江ノ電腰越駅からすぐ、江ノ電の併用軌道区間の端にある神戸橋(ごうどばし)交差点は、江の島を望むこともできる港町腰越の中心地。橋下を流れる川面を覗くと、アユなどの川魚が泳ぐ姿も。毎年7月開催される「小動神社天王祭」は、鎌倉を代表する夏祭りの一つで、大きな山車が連なり、お囃子に合わせて、威勢よくお神輿が練り歩きます。

そんな自然と人の営みが色濃く残る腰越の地で、2014年から営業を続けるのが【野菜フレンチ Suzu】です。オーナーシェフの宏和さんと、パティシエールの麻弓理さんのご夫婦が切り盛りするお店は、地元のお客さまを中心に、彩りも味わいも豊かな野菜たっぷりのフレンチが味わえるお店として親しまれています。

▲アットホームで落ち着いた雰囲気の店内。入口横のガラス窓からたっぷりと自然光が入ってきます

都内ご出身のオーナーシェフ、宏和さんは著名ホテルや飲食店のキッチンを経て、南仏アルルにあるジャン・リュック・ラバネル氏の星付きのレストランで研鑽を積み、帰国後は都内にあったTSU.SHI.MIで都志見シェフのもと経験を重ねます。その後、独立の地として、鎌倉市腰越を選び、2014年にSuzuをオープンさせました。

ジャン・リュック・ラバネル氏、都志見セイジ氏ともに、野趣あふれ彩り豊かな野菜をフレンチの主役に昇華させた先駆者として有名なシェフです。そのお二人から学んだ宏和さんが手がける野菜フレンチをいただきましょう。

▲アミューズ「大地の恵み 40種類の湘南野菜」

Suzuは、昼夜ともに、6皿のフルコースと8皿からなるSuzuコースの2つコースのみ。アラカルトはありません。お子さま向けに、ハンバーグプレートとハンバーグコースの2つのメニューが用意されています。お子さま連れも大歓迎というホスピタリティが素敵です。コースとはいえ、お一人さまでのご来店も多いそう。いずれのコースも前日までの予約が必要です。

この日は、6皿のフルコースをオーダーしました。一皿目は、木目の平皿に盛り付けられた美しいアミューズです。野菜や豆など、素材そのものが持つビビットな色合いや艶に驚きます。

▲小さくカットされた野菜や芋の断面には美しさを、そのままの形の豆には可愛らしさを感じます。瑞々しさと同時に、野菜が持つ秘めた力が伝わってくる一皿です

茹で、蒸し焼き、酢漬けなど調理法も異なり、口に入れるまで、食感も風味も想像が及ばない面白さがあります。覚えのある素材本来の味と調味され重なることで生まれる新しい味わいに、悦びを感じます。合間に散りばめられた黒い粒は、「土に見立てた」という調味料で、ブラックオリーブやアンチョビ、クルミやパン粉で作られるのだとか。土がついた野菜のように一緒にいただくと、土のような香りが加わり、さらに野菜本来の滋味深さを引き出すようです。これは、ついついワインに手がのびてしまいます。

▲冷前菜 ビーツ/本州鹿/フロマージュブラン/山桃

ビーツとトレビス、そして山桃の赤紫色が白いお皿に映えます。千切りにされたトレビスの下には、フロマージュブランと黄色いミニトマトが。最下層には、本州鹿のスライスがカルパッチョのように敷いてあります。ローストビーフのように低温で調理された鹿肉は、癖を感じません。フロマージュブランの酸味とコクも合わさって、優しくも豊かな味わいが広がります。さっぱりとした夏らしい味わいが嬉しいです。

▲スープ とうもろこし/ブラックペッパー

「コーン粒だけでなく、芯も一緒に煮込み、しっかりとパッセ(裏ごし)して作る夏の定番スープです」。乳化したスープは冷製ながら舌触りが滑らかで、甘い香りが濃厚でコクのある味わいを生んでいるようです。芯の繊維も使うというサブレが、よいアクセントになっています。

▲魚料理 キャベツ/本日の鮮魚/トマト/豆苗

キャベツの葉の間に、白身魚(この日はワラサ)の切り身と自家製ベーコンがミルフィーユされています。フレッシュなトマトと白ワインなどで作られたソースが、キャベツにも魚にもよく合います。江の島を彷彿とさせる立体的な形が、腰越というロケーションにぴったりですね。

▲肉料理 トロンボンチーノ/山口県産むつみ豚ロース ロースト、自家製の塩パン/サワーブレッド

低温でじっくりとローストされた豚肉は、ほどよく弾力がありながらも、食べやすい噛み応え。最小限の塩味が肉の旨味を引き出し、酸味と甘さを感じさせるマデラソースとの相性も絶妙です。隣には、茄子のような形のお野菜、トロンボンチーノが存在感たっぷりに並んでいます。ズッキーニのような瑞々しさと、かぼちゃの質感を併せ持つ珍しいイタリア野菜。素揚された断面の上にはおかひじきとらっきょう、ひまわりの花びらが添えられています。この存在感は、メインの肉を引き立てるために添えされる「付け合わせ野菜」とは、明らかに一線を画すもの。これぞ、Suzuが標榜する「野菜フレンチ」を象徴するような一皿のように感じます。

フランス料理と言えば、バターや油脂をたっぷり使った濃厚なソースや調理法を思い浮かべがちですが、シェフの料理は、フレンチの調理法や調味料を駆使しながらも、日本の風土で育った野菜を多用することで、重たさを感じさせない点も魅力の一つと言えそうです。

▲デザートとお飲み物

コースの締めくくりとなる6皿目、デザートはパティシエール麻弓理さんの手によるもの。今回は定番のフォンダンショコラとアイスクリームをいただきました。断面からガナッシュがとろりと溢れるフォンダンショコラの後に、アイスクリームをひと匙。濃厚な蜂蜜の香りと独特の味わいが広がり、驚くほど。「秦野産の栗の木の蜂蜜を使ったアイスクリームです。ショコラの強さにも引けを取らない味わいを、お楽しみください」と、麻弓理さん。フォンダンショコラも王道の美味しさがありますが、この蜂蜜たっぷりのアイスは、自然の恵みを感じるコースを締めくくるのにふさわしい一品でした。

常連客の多くは、麻弓理さんが作るお菓子を楽しみにされている方も多いというのも頷けます。渋皮煮から手作りするという秋季限定のモンブランをはじめ、春には桜餅も登場するのだそう。

▲窓からは、通過する江ノ電や港町の風情のある腰越の町並みが見えます

当初から野菜フレンチをコンセプトに掲げるSuzu。開店からしばらくは、「肉や魚は扱わない野菜料理の専門店と受け取られ、影響が少なくありませんでした」と、宏和さんは振り返ります。6皿からなるフルコースを体験して感じたのは、シェフの作る野菜フレンチは、肉や魚同様に、野菜を主役に据えた料理であること。肉や魚の味わいを一層引き立てる仕事を、野菜たちに託した料理と言えるかもしれません。

野菜へのこだわりを伺うと、2017年から秦野市に畑を借り、自家農園で野菜作りを行っていることを教えてくださりました。「開店当初は、お店を守るので精一杯でしたが、徐々に、自分が求める野菜で料理をしたいという気持ちを自覚するようになりました。まさか自分で野菜を育てるとは想像もしていませんでしたが、ご縁あって秦野で野菜作りをはじめることができました。」と、畑で日焼けしたシェフがはにかみます。

▲オーナーシェフの宏和さんと、パティシエールの麻弓理さん。シェフは、高校時代にはブラジルにサッカー留学していた経歴も

「使いたいタイミング、例えば小さなサイズのニンジンを収穫できたり、なかなか手に入りにくい種類の野菜を栽培できたり。自分で畑をやるメリットはたくさんありますよ」と、さらりと言います。お店を営業しながら、自ら土を耕し、収穫した野菜を使った料理を提供することは、簡単なことではないはずです。

そもそも野菜を主役とするフランス料理との出会いは、何時だったのでしょうか。「野菜の美味しさや面白さに気づいたのは、渡仏してからでした。最初は、パリのお店で修行していたのですが、マルシェに並ぶ野菜の華やかさと美味しさに魅了されました。フランスでの2軒目の修行先を選ぶ時に、野菜の料理にフォーカスしているシェフが南仏に居るということで、ジャン・リュック・ラバネル氏を訪ねました。今思い返しても、最高の出会いでした」と、当時を振り返ります。

ご自身で野菜を作り始めたことで、料理に変化はあったのでしょうか。「Suzuを開いたばかりの頃は、フレンチの技法やレシピを守ることを強く意識した料理が多かったのですが、自分で野菜作りを始めてからは、調理にも自然体で臨むことができるようになってきました」と、肩の力の抜けたリラックスした表情で、シェフは言います。洗練されながらも、どこか優しさを感じるSuzuの料理は、シェフ自身が、野菜を育てていることも大きいのかも知れません。

▲新たにスタートした「Home Suzu」ブランド。新商品として、プラントベースの焼き菓子10種を詰め合わせたクッキー缶もオンラインで販売開始

2025年春からは、店舗とは別に、菓子製造所も開設し、オンラインでの焼菓子販売もスタート。食品アレルギーをお持ちの方も安心して召し上がれるようにと、材料を厳選して焼きあげられたお菓子は、お店で提供されるデザートとは、異なる美味しさで、早くもリピートされるお客さまもいらっしゃるとのこと。オンライン以外でも、Suzuの店頭でも購入することもできるそうです。

今回のコースは、夏の料理でしたが、季節が移ろうごとに野菜などの素材や調理法も変化するそうです。その季節の旬の味わいを楽しみに、野菜フレンチSuzuを目的に、腰越へ出かけませんか。電車なら、料理とワインを存分に楽しむことができますよ。

取材 ALOHAS
※掲載情報は2025年7月取材時点のものです。

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概要

※掲載している情報が変更になっている可能性がございますので、公式サイト等で最新の情報をご確認ください。

店舗名
野菜フレンチ Suzu
ヤサイフレンチ スズ
住所
〒248-0033 鎌倉市腰越3-1-21 坂本ビル1F
TEL
0467-31-2506
アクセス
江ノ電「腰越駅」から徒歩2分
営業/拝観時間
【ランチ】11:00-15:00(最終入店12:30)
【ディナー】17:30-22:00(最終入店19:00)
※ランチ、ディナーともに前日までの予約が必要です
定休日
火曜、水曜
公式サイト
こちら