江の島・鎌倉の伝統を受け継ぐ vol.1「鎌倉彫」

鎌倉の伝統工芸品「鎌倉彫」

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昨今、鎌倉時代が注目を集めていますが、鎌倉文化を代表する仏師運慶(うんけい)に連なる鎌倉の仏師たちの技術や心を引き継ぐ「鎌倉彫」は当時の息吹を感じることのできるものの一つです。

今回は、その「鎌倉彫」に注目していきます。

鎌倉彫の歴史

鎌倉時代、中国から禅宗が本格的に伝わり、中国から招請された僧、蘭渓道隆(らんけいどうりゅう)によって建長寺として建立されました。建長寺は我が国最初の禅宗専門道場として建立され、その後には同じく中国から招請された僧、無学祖元(むがくそげん)によって円覚寺が建立されるなど、禅宗寺院が鎌倉に並び立つようになります。
特に禅宗寺院では中国で作られた彫漆器(ちょうしっき:漆を何度も塗り重ねて彫刻した漆器)が仏具として利用されていました。

これらの仏像や仏具を作る仏師たちの技術が、その後に登場する鎌倉彫の源流と考えられています。

建長寺「黒須弥壇」(鎌倉国宝館寄託) ©️鎌倉国宝館

鎌倉幕府滅亡後も禅宗寺院では、引き続き仏像や仏具が制作され、屈輪(ぐり)と呼ばれる渦巻き(うずまき)の幾何学文様や牡丹(ぼたん)といった中国的なデザインの香合(こうごう:香を入れる蓋付きの容器。)などが盛んに作られるようになりました。
室町時代後期の公家である三条西実隆(さんじょうにしさねたか)が記した日記「実隆公記(さねたかこうき)」には「鎌倉物(かまくらもの)」と言う記述が登場します。

江戸時代になり茶道が流行すると、鎌倉彫の上品で風雅な姿が茶人に好まれ、香合、茶器、盆などといった茶道具が多く制作されました。

「牡丹文香合」 江戸時代   ©️鎌倉彫資料館

明治維新政府が神道を国家宗教とする動きの中で、廃仏毀釈運動(はいぶつきしゃくうんどう:仏教寺院・仏像・経巻などを破壊する仏教排斥運動のこと。)がおこり、全国の寺院が破壊されてしまい、鎌倉の仏師たちは困窮して行きます。

しかし、後藤家、三橋家の仏師は、従来の仏像や仏具から、生活の中で使われる鎌倉彫の制作を行うようになりました。
鎌倉に横須賀線が開通すると、別荘地として多くの人々が訪れるようになり、鎌倉彫は別荘に住まう人々の日常生活品やお土産として利用されるようになりました。

そしてエッフェル塔がシンボルとしてつくられた1889年のフランスパリ万博で人気を博しました。

このように一時は危機に瀕した仏師たちが国内外の需要を生み出すことに成功しました。

後藤齋宮 作 「菊文菓子器」 明治時代    ©️鎌倉彫資料館

第二次世界大戦後の高度経済成長期には、各地のカルチャー教室で鎌倉彫制作教室が開講され、趣味として鎌倉彫の制作を楽しむ人たちが増加し、より身近なものとなりました。

昭和54(1979)年には「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」により、神奈川県の伝統的工芸品として指定を受けました。現在は、伝統的な技術の継承を行いながら革新的な作品づくりにも挑戦しています。また、アクセサリーやインテリアなどの商品開発にも力を入れています。

三橋昌山 作 「蝶 飾皿」 昭和59年  ©️鎌倉彫資料館

鎌倉彫の製作工程

鎌倉彫は数ある木材の中でも北海道産の桂材が、丈夫で加工しやすいため最適とされています。

では、その後の製作工程を見てみましょう。

①絵付け
 木地に下絵を転写します。

②たち込み
 木地に転写した下絵に沿い、小刀を使い切り込みを入れます。

©️鎌倉彫資料館

③際取り(きわどり)
 たち込みによって切り込んだ線の外側を斜めに切り落とし、文様を浮き上がらせます。

④刀痕(とうこん)
 文様部分を立体的に表現していく。文様のない地の部分には意識的に彫った跡を残してます。みなさんがイメージする「鎌倉彫」はこの刀痕の部分ではないでしょうか。

⑤木地固め(きじがため)
 彫りの作業が終わると塗りの工程に進みます。
 漆の木から採ったままの樹液のことを「生漆(きうるし)」と言いますが、まずこの生漆を全面に塗ります。

⑥蒔き下地
 生漆を塗った後に、炭の粉や砥の粉(とのこ)を蒔き、乾いたら研ぎます。

⑦中塗り
 黒い漆を2回塗り、砥石(といし)やサンドペーパー、研炭(とぎずみ)で更に研ぎます。

⑧上塗り
 朱色の顔料を透明な透き漆(すきうるし)に混ぜた上塗り漆を塗ります。

©️鎌倉彫資料館

⑨乾口とり マコモ蒔き
 上塗り後に、生乾きの状態で、マコモ粉(※)を蒔き付けることで経年によって落ち着いた色合いになります。

このマコモ蒔きは他の漆塗りの技法にはない鎌倉彫の特徴です。

(※)マコモとは沼地や川の岸辺に育つイネ科の多年草で、マコモの根に近い茎の部分についた黒穂菌を粉末状にしたものがマコモ粉です。

©️鎌倉彫資料館

⑩研ぎ 摺漆(すりうるし)
 蒔いたマコモが乾燥したら、研ぎ出すことにより彫刻した部分の陰影を出します。その後に生漆を薄く塗り、布で拭き取る作業を2・3回繰り返すことで艶(つや)が現れます。


これらの工程を経て、ようやく鎌倉彫が完成するのです。

©️鎌倉彫資料館

鎌倉彫製作体験

鎌倉彫を見ているだけでなく、実際に彫ってみたい、と言う方も多くいらっしゃると思います。
そのような方を対象とした有料の体験教室を、鎌倉彫資料館鎌倉彫工芸館で開催していますので、詳細は各施設の公式ホームページをご覧の上、お申し込みください。
(現在、一部コースの受付を停止していますのでご注意ください)


●鎌倉彫資料館 公式HPはこちらから

●鎌倉彫工芸館 公式HPはこちらから

©️鎌倉彫資料館

©️鎌倉彫資料館

鎌倉彫の御朱印製作

最近では全国で御朱印をいただきながら拝観される方も多くいらっしゃいます。
その中でも、鶴岡八幡宮、御霊神社、佐助稲荷神社 をはじめ、十三仏巡拝の対象寺院(明王院、浄妙寺、本覚寺、壽福寺、円応寺、浄智寺、海蔵寺、報 国寺、浄光明寺 、来迎寺、覚園寺、極楽寺、成就院)などの寺社の御朱印を鎌倉彫で制作するという鎌倉ならではの取り組みが三年の歳月をかけ実施され「鎌倉市商工業元気アップ事業」にも認定されました。
2022年6月21日には鶴岡八幡宮にて奉納式が執りおこなわれ、引き続き来年にかけて十三仏巡りの寺院でも奉納式が執り行われる予定です。
次回、みなさんが御朱印を拝受する際は鎌倉彫で作られた御朱印であればより一層、有り難みが増しそうですよね。

©️鎌倉はんこ

※掲載情報は2022年7月取材日時点のものです。
取材 岡林渉