美大のデザイン科を卒業後、広告代理店を経てフリーとして映像制作に携わってこられた久保田さん。大きな案件を任され、最先端の技術や大勢の仲間たちと熱中しながら仕事を続けてきたそうですが、転機が訪れます。「アトピー性皮膚炎を発症してしまい、いろんな病院で診てもらいましたが原因は分からず。白いシャツも着られないほどの酷さでした」。
体調を整えるために仕事の内容や量を調整し、漢方による治療が効き徐々に快方へ向かいます。そして、この病気が一つのきっかけとなり、長年続けてきた映像制作の仕事を辞め、画家に転身することを決めます。
海岸まで徒歩圏内のアトリエにて。油絵をメインに水彩画も
少年時代から描くことが好きだった久保田さんは、学生時代に波乗りと出会い、現在でもサーフィンを楽しまれています。「映像の仕事をしていた頃から、広告用のカットを依頼されたり、時々グループ展などに誘ってもらい油絵を発表していました」。その頃の作品から「波乗り」を題材にした絵が多かったそうです。
仕事を辞めた直後は、毎日のように絵を描き波乗りばかりの生活だったとか。「海には遊びで入っているんじゃない。絵を描くために入っているんだ。と、自分に言い聞かせて(笑)」。アトピーもすっかり良くなっていったそうです。
画家の友人から「絵の完成度ばかり求めていても仕方ない。作品が出来ているなら早く発表したほうがいい」と背中を押されます。映像制作の仕事を辞めた直後から画業と波乗りに2年間いそしみ、2009年に表参道画廊で初めての個展を開催。ついに画家としてデビューを迎えます。
最近は静物画も描くことが多いそう。モチーフを配置するセットも自作。天井にはサーフボードも
「絵を見ることは意外と難しいですよね。だから長く見続けることができる絵が良い作品じゃないかと。そう考えて『調和』を求めて筆を重ねてゆくと、どうしても淡い色彩になってしまうのです。これでも一時期よりは濃くなったほうです」。
久保田ブルーと言うような淡い色彩が印象的な作品群。大きな作品は1年がかりで完成するそうです
「絵画って何だろう、とは常々考えています。絵はもともと大きな社会の一部。だから社会が変われば、(自分が描く絵も)自ずと変化してゆくだろう、と。実際に社会の大きな変化、自然災害などの後は、描く内容も変わりました」。
CMなどの映像を制作していた時から「きちんと伝わるのだろうか」と常々自問してきたそうですが、絵には「自分がOKならOKゆえの難しさや悩みがある」と静かに話す久保田さん。波乗りや日々の社会生活を通じた「内発性」から生まれる久保田さんの絵描きはこれからも続きます。
5年ぶりのKAMAKURA DRAWING GALLERY(御成町)での個展(22年1月)、そして初めて個展を開いた表参道画廊での個展(22年2月)を終えたばかりながら、次の作品作りがはじまっています。今後の個展などに関する情報は久保田さんのSNSでご確認ください。
久保田 潤さんの作品を見れる鎌倉江の島地域のお店、購入できる画廊情報
・山本餃子(御成町)
・John(材木座)
久保田 潤(くぼた じゅん)
1956年 東京生。鎌倉市材木座在住。
東京藝術大学形成デザイン科卒。広告映像の仕事を経て2009年より画業。
個展・グループ展多数。 Bueno Booksより絵本「なみにのる」刊行中
取材 ALOHAS
※掲載情報は取材日時点(22年4月)のものです。