イタリア生まれの美しい万年筆・パラチオ。特殊な技術で染色した楓材、 樺材を寄木細工のように組み合わせたスタイリッシュなデザインで、触れると、木のぬくもりが伝わってくる。
「パラチオのような3000円台の万年筆は「最初の1本」として人気です。ただ、 国産と違って外国産だと、 どうしても不具合があるものも。店側としては、 店頭に出す前にメンテナンスのひと手間が必要になってしまう。でも、 僕にとって文具はデザインも大事。見た目が好きじゃないと使わないし、 使えば使うほど手になじむものだと思ってます」
細い路地裏に佇む文具店「TUZURU」 の店主 ・柴田亮治さんは、高校時代から万年筆の愛用者。自分の文字にコンプレックスを抱いていた当時、さまざまな筆記具を試す中で行き着いたのが万年筆。ボールペンとは違う、インクの濃淡があるブルーの文字。その風合いが美しく、道具としても魅力的だった。
イタリアらしいカラーリング、フィオレンティーナの万年筆・パラチオ。鎌倉のモチーフや花を描いたオリジナルポストカードは全17種類
「最初は父の万年筆を使っていたのですが、 自分のものが欲しくて文具店に行ったとき、ショーケースに並んだ万年筆を店員に〝見せてください〟 と言うのに勇気が必要だった。その記憶があって、 もっとカジュアルに万年筆を買える店にしたかったんです」
そうして【TUZURU(ツズル)】をオープン。万年筆をはじめとする筆記具、レターセットやポストカードなどのペーパーアイテムを揃えた。
海外旅行に出ると手紙を送りたくなる自身の経験から、店内奥に手紙を書けるスペースも用意した。友達に、家族に、自分に。鎌倉を訪れた記念に手紙を出せば思い出になりそうだ。
国内外からセレクトした筆記具が並ぶ。1本ずつ手に取ってお気に入りを見つけて
手紙を書けるライティングスペース。ポストに入れると、近くの郵便ポストへ投函してくれる
柴田さんは鎌倉出身。これまで、開店する店も閉店する店もたくさん見てきた。長く続けるには、 観光客だけでなく地元客にも愛される店にならなければ。そんな思いから、 日常的に必要なご祝儀袋などの日用文具も扱うように。いつしか〝街の文具屋さん〟として、地元に欠かせない存在となった。
銭洗弁財天へ通ずる道にある。店名は「綴る」と「通ずる」、ふたつの意味をかけているそう
「子供の頃から通っている御成通りの店 【くろぬま】さんはひとつの目標です。もとは紙屋さんですが、ベーゴマやブリキのクルマなど昔ながらのおもちゃも扱う。100円ショップでも似たようなものが買えるかもしれないけど、僕はくろぬまで買いたいと思う。文具も同じですよね」
大きな文具店では目立たない存在でも、柴田さんに見つけ出されて輝きを増した文具。そこにはきっと、プライスレスなときめきがあるはずだ。
「大きな店では埋もれてしまう"いいもの"を紹介するのが仕事」と柴田さん